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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)9770号 判決 1977年12月26日

原告

山本一郎

右訴訟代理人

長塚安幸

外二名

被告

中川文子

右訴訟代理人

上野伊知郎

主文

一  被告は、原告に対し、金二〇万円及びこれに対する昭和五一年二月一〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金五〇万円及びこれに対する昭和五一年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、妻の山本花子、長男義治(当二年)、次男武(当一〇か月)及び原告の実父正男(当七七年)とともに、四畳半及び六畳の二部屋からなる住所地の居宅に生活しているものである。

2  被告は、訴外川上文彦(以下「川上」という。)と知合になり、内縁関係にあつたが、その後、被告と川上との仲は疎遠になり、同人は被告との交際を断つた。

3  そこで、被告は川上の実妹にあたる山本花子の夫である原告に対してもいやがらせをしようと企て、昭和四九年二月一一日から同年四月二〇日まで、同年九月二五日から昭和五〇年一月まで同年九月一五日から同年一一月までの間、毎日のように前後数千回にわたり長時間原告宅に電話をかけ、「乞食になるまでやつてやる。」「川上と付合つたらただではおかない。」「原告は雲助運転手のくせに……」とか、妻花子が妊娠中には、「お腹の子に影響するからいい気味だ。」等の文言をはさみ、怒号罵倒していやがらせを続け、原告宅において何度電話を切つても、すぐに電話がかかつて来る状態であつた。

4  このため、原告は、電話による侮辱とともに、夜遅く時には朝の五時まで電話をかけられたため安眠することができず、また、高齢な父親や、妻妊娠中にあつては妻と胎児の健康、次男武が昭和五〇年二月五日出生して後は、その充分な睡眠等に対する影響に心を痛めた。

この被告の不法行為により受けた原告の精神的苦痛は金五〇万円をもつて慰謝されるのが相当である。

5  よつて、原告は被告に対し、右不法行為による精神的苦痛に対する慰謝料として金五〇万円及びこれに対する不法行為日の後である昭和五一年二月一〇日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。<中略>

理由

一請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、被告の不法行為について検討する。

<証拠>によれば、川上と被告は、昭和四八年一一月に知合い、同棲するようになつたが、昭和四九年初めころからその性格の不一致等のため交際は円滑を欠き、同年二月ころから一旦別居したこと、そのころから、川上の実妹山本花子の夫である原告の自宅に、被告から主として川上の所在を尋ねるため日に五、六回電話がかかり、この状態が同年四月ころまで続いたこと、川上と被告とはその後再び同棲したが、同年九月二四日、川上は、同棲先を出たまま帰らなくなつたこと、被告はそのころから昭和五〇年一月にかけて川上のことに関連して原告宅に少なくとも数十回電話をし、深夜に頻繁に電話をしたことも一〇日程度あつたこと、その後川上と被告とはまたよりを戻したが、同年九月最終的に別れるようになつたこと、被告は、そのころから同年一一月にかけて同様に川上のことに関連して頻繁に原告宅に電話をしたこと、右いずれの時期においても、当初はしかるべき用件で電話がかけられたものの、次第に激しい内容のことばがやりとりされ、ついには被告が原告ないしは原告の妻に対し侮辱的なことばを用いて罵倒するためにかけられることが認められる。

右のような内容による執拗で頻繁な電話は、電話の相当な利用方法を逸脱するものであつて、他人の生活の平穏を乱す違法な行為であり、被告には、よつて生じた損害を賠償する責任があるものといわなければならない。

<証拠>によれば、原告宅は四畳半と六畳の二部屋からなり、そこにはタクシー運転手の原告、昭和四九年九月から昭和五〇年一月ころにかけて妊娠七カ月の状態にあつた妻、昭和四八年九月生れの長男、昭和五〇年二月生れの次男、七七才の実父の五人が居住し、二部屋の中間におかれた電話器から頻繁に生ずる音と前記認定のような内容による度重なる被告との応待は、原告一家の生活に多大の肉体的・精神的悪影響を及ぼし、一家を支える原告としては自己の職業上の体調維持と、家族の健康とに多大の精神的な苦痛を蒙つたことが認められ、原告の受けた右精神的苦痛に対しては、慰謝料として金二〇万円をもつて補うのが相当である。<後略>

(桜井文夫)

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